調査結果
追加調査:HIV陽性者対象の早期診断・早期治療に関するFGI調査研究報告書
HIV陽性者9名を対象としたフォーカス・グループ・インタビュー(FGI)で、免疫機能障害による身体障害者手帳について意見を聞きました。その結果、以下のような意見を聴取することができました。多くの方々に結果をフィードバックし、また結果を広く活用してもらうために、公表いたします。
<結果報告書PDF版>
ダウンロード
PDF 全文(48ページ)
【この調査について】
日本では免疫機能障害による身体障害者手帳の認定基準は約30年間変わっていません。そのため、HIV陽性と診断されても抗HIV治療を早期に開始することができない人々が多く出てきています。体調悪化する者も出るなど、大きな影響が出始めています。
HIV陽性診断後、遅くても1週間以内に抗HIV治療を開始するべきであるとする世界的な治療開始時期コンセンサスが医学的にはあるにもかかわらず、現行の身体障害者手帳認定基準が合わず治療開始ができないというこの制度は、もはや時代遅れと言えます。
HIV陽性者の健康問題のみならず、U=U時代の感染拡大予防の観点も含めると、重大な人権問題ともいえ、一刻も早く改善するべきです。しかし、認定基準改正をするという流れは現在止まったままです。
そこで今回、免疫機能障害による身体障害者手帳のあり方について、主に認定基準改正等に向けた示唆を得ることを目的として、HIV陽性者を対象として、
・身体障害者手帳を所持することで得られるメリット
・認定基準を改定する場合の望ましい方向性
・早期治療開始が難しい状況を解決する方策
・身体障害者手帳による福祉サービスとして必須のもの
などについての意見をもらうフォーカス・グループ・インタビュー(FGI)調査を実施しました。
発言内容を内容的に分析した結果、以下のような意見が出てきました。
1.早期治療開始を断念せざるを得ない現状
- 現在の認定基準では、CD4値やウイルス量が一定条件を満たさなければ手帳を取得できず、高額な医療費のために治療を開始できない事例が周囲にもあることが報告されました。「10数年近く治療を受けられていない方がいる」との発言もありました。一方で、高額療養費制度を活用して治療を始めると、将来的に身体障害者手帳取得が難しくなるとの懸念も示されました。
- 早期治療開始が世界的に推奨される中で、こうした実態に対し、国が有効な対策を取っていないことへの不満の声があがりました。
2.国や厚生労働省の不十分な啓発・支援を実質的に補っている身体障害者手帳
- 免疫機能障害による身体障害者手帳の交付、ならびにそれに基づく福祉サービスの利用は、HIV陽性者が抱えるスティグマと精神的健康の悪化、ひいては就労困難といった社会的問題への対応策として機能していると指摘されました。
- 高速道路やJR料金の割引制度などは、エイズ診療拠点病院の整備が不十分な地域において遠方への通院が不可避な状況を補うために必須の支援であるとの声がありました。
- 国や厚生労働省がHIVに関する十分な啓発・支援を行っていない現状では、等級見直しや医療費助成制度への一本化によって福祉サービスが現状より削減されることに賛同しがたいという声が多く聞かれました。
3.認定基準と等級評価の見直し
- HIV陽性が確認された時点で、すでに「身体障害が固定された状態」と見なすべきだという意見が多数を占めました。
- そのうえで、等級判定はCD4値およびウイルス量の各1回の検査結果で決定する方向性が望ましいとの提案がなされました。
- さらに、医学的検査値のみによる認定基準から脱却し、心理的・社会的要素も加味した総合的な障害認定制度への移行が必要であるとの指摘もありました。
4.財源制約と薬価の見直し
- もしも制度変更による国の支出を増やせないならば、薬価の大幅な引き下げを優先するしかないとの意見が示されました。薬価を大幅に引き下げれば、障害者手帳がなくても自己負担で服薬でき、医療へのアクセスが拡大する可能性があるとの指摘です。また、薬価の高さが医療機関の在庫管理や患者の治療選択肢にも悪影響を及ぼしているとの問題提起もありました
5.制度設計の視点と当事者の健康
- 基準見直しが、公衆衛生上の「感染拡大防止」を主眼にしているとすれば、それはHIV陽性当事者にとって好ましいものではないという発言がありました。そして、制度設計にあたっては、HIV陽性者の健康維持と予後改善の視点を中心に据える必要があるとの意見が多く聞かれました。